筑波大学植物代謝生理学研究室
(白岩・鈴木研)

〒305-8572
茨城県つくば市天王台 1-1-1
筑波大学大学院
生命環境科学研究科
生物科学専攻
植物代謝生理学研究室

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藻類リサーチユニット

卒研生・大学院生・研究マインド研究生(生物学類)を募集しています. まずはどなたか教員にご連絡後, ラボ見学に来てみてください.

Research 研究内容


植物代謝生理学研究室では, 微細藻類を用いて研究を行っています. 一口に藻類と言っても様々な種類があり, 当研究室では以下の円石藻, ラン藻, 緑藻を主に用いています. 各研究テーマをクリックすると詳しい説明に飛びます.

■ ラン藻 Synechocystis sp. PCC 6803

Two-component System 二成分制御系
○ Photosystem 光化学系
Fatty-acid Biosynthesis 脂肪酸合成

■ 緑藻 Chlamydomonas reinhardtii

High-CO2 assimilation 高CO2順化機構

■ 緑藻 Botryococcus braunii

Biofuel production 炭化水素生産

■ その他の藻類 Others

Trace Element Utilization 微量元素利用

○ Carbon Assimilation 炭酸固定

植物は, 共生により葉緑体(=光合成能力)を獲得した集団であり, 系統的に異なる様々な生物の集まりです. そのため, 植物の光合成を理解するためには, 一つの分類群だけでなく, 異なる様々な分類群における研究が必要です. しかし, 光合成の研究は緑色植物を中心に進められており, その他の植物や藻類ではまだまだ遅れています. また藻類の中には, 緑色植物とはまったく異なる系統に属しており, かつ地球環境に大きな影響を与える重要なグループが存在します. 円石藻もその中の1つです.
円石藻は, 海洋に生息する単細胞藻類であり, 光合成と石灰化により海洋のCO2を固定します. また円石藻は, “ブルーム(水の華)”と呼ばれる大規模増殖を引き起こします. そのため, 地球規模の炭素循環に大きな影響を及ぼす重要な生物であることが知られています. しかしながら, 円石藻の光合成(特に炭酸固定)に関する生化学的研究は遅れており, 代謝レベルでどのような特徴があるかは明らかになっていません. そこで, 私たちの研究室では, 円石藻の光合成炭素固定系を, 分子レベルで明らかにすることを目的とした研究をおこなっています. 円石藻の炭酸固定系の解明は, ブルーム形成の要因や, 光合成の進化と多様化を考える上で欠かせない, 重要な研究です.


○ Biomineralization ココリス形成

生物による鉱物形成反応をバイオミネラリゼーション(biomineralization)と言います. バイオミネラリゼーションは細菌から植物, 動物にいたるまでさまざまな生物が持っている能力です. 生物によって形成される鉱物は無機的に生じた場合とは結晶の構造が異なり, それにともなって性質も変化することが観察されています. 人の骨や歯はリン酸カルシウム, 貝殻は炭酸カルシウム, イネ科の植物が形成するプラントオパールはケイ酸塩というようにバイオミネラリゼーションによって形成される鉱物の種類もさまざまです. この中でも炭酸カルシウムは海洋生物が形成する鉱物としては最大の割合をしめると推定されています.
円石藻はハプト植物門に属する海洋性微細藻類の一種であり, 炭酸カルシウムを主成分とする「殻」を持っています. 私たちの研究室ではおもに円石藻Emiliania huxleyiを使用していますが, この円石藻の「殻」は炭酸カルシウムを主成分とする楕円状の構造物が組み合わさった形をしています. この構造物をココリス(円石)といいます.
ココリスの形成は細胞内で行われます. 最初に, ココリスの形成の場となる細胞小器官(ココリス小胞) が生じます. この膜構造はゴルジ体由来であると考えられています. ココリス小胞内部には有機物からなる楕円形の基盤が観察されます. 次に, 基盤の辺縁部に炭酸カルシウムの結晶が形成されます. このときココリス小胞に加えて, 網状体とよばれる膜構造が観察されます. 結晶成長が終了した後, 網状体は消失します. 最後に, 完成したココリスは細胞外に放出されます.
ココリスの形成の過程をたどると, ココリス形成には特殊な膜構造の形成や, 大量のカルシウムの輸送など, さまざまな仕組みが必要であることが予想されます. しかし, これらの大半はいまだに明らかになっていません. また, ココリスを溶かすと複雑な構造をもつ酸性多糖が得られることから, 多糖がココリスの形態制御に関わっていることが示唆されています. しかし, この酸性多糖の合成経路もその大半が不明の状態です.
私たちのグループではココリス形成過程に関与する生体高分子の解析を行うことにより, ココリス形成制御機構の解明を試みています.


○ Alkenone Biosynthesis アルケノン合成

円石藻の仲間には「アルケノン」という少し変わった脂質をつくるものがいます. アルケノンは一般的に炭素鎖が37~38の長鎖のケトンで, 分子内に2~4個のトランス型の不飽和結合を持っています. 生体脂質の不飽和結合のほとんどがシス型であることからアルケノンは非常にユニークな脂質であると言えます.
比較的アルケノンの不飽和度は合成時の培養温度と強い相関があることから, 地質学や有機地球化学の分野では堆積物や地層形成時の温度を推定する古水温計として多用されてきました.
どうして円石藻がアルケノンを合成するのか, またどのように合成・分解されるのかについてはほとんど分かっていません. アルケノンを合成する種は円石藻の中でもEmiliania huxleyiとその近縁種の数種に限られており, アルケノン合成能は円石藻の進化の過程で比較的新しく獲得されたと考えられています.
私たちは円石藻内でのアルケノンの生理機能や代謝機構を解明することを目標に研究を行っています.


○ Selenium Utilization セレン代謝

円石藻は海洋性の単細胞藻類であり, 炭酸カルシウムを主成分とする円盤状の特別な構造体(円石)で細胞表面が覆われているのが特徴的です. その中でもEmiliania huxleyiは毎年, 衛星観測される程の大規模なブルーム(爆発的な増殖)を生じることで有名です. また, 先行研究より生育にセレン(Se)が必須であることが明らかになっています.
セレンは同族の硫黄と物理化学的な性質が非常に似た元素であり, 人を含む哺乳類やバクテリアなどの様々な生物で必須微量元素になっています. このSeの必須性は, システインのセレン態であるセレノシステインを酵素の活性中心に特異的に配置した, セレノプロテインと呼ばれるタンパク質の活性維持のためと考えられています. 一方で,高濃度に存在すると非常に強い毒性を示すことは生物界共通の現象です.
光合成生物の中で最もSeの研究が活発に行われているのは陸上植物であり, その代謝系も明らかとなっています. しかし陸上植物におけるSeの挙動は, 毒性を回避するために無毒な形態で蓄積されることにとどまり, Seの生育に対する必須性やセレノプロテインの存在は認められていません. 光合成生物でそれらの報告があるのは一部の藻類に限られており, Seを必須とする光合成生物でSeがどのような機能を果たしているかはほとんど分かっていないのが現状です.
そのため光合成生物におけるSeの生理機能を解明することを目的とし, 円石藻Emiliania huxleyiを用いて研究を行っています. さらには, 生物の系統分類学上特異な位置にある円石藻のSe代謝機構を解明することによって, 生物進化におけるSeの利用戦略の解明に新たな知見を加えることが期待されます.


○ Two-component System 二成分制御系

ラン藻は淡水(低浸透圧条件)で生息するものから死海(高塩・高浸透圧条件)で生息しているもの, 低温地帯や, 高温環境, 乾燥条件でも生育, 生存できる種が存在していることから, その環境適応能の高さが見て取れます. 我々人間のように移動が可能な生物は, 例えば「日差しが強くてちょっと暑いな」と感じたら日陰に移って涼むことが出来ますが, 植物のように移動のできない生物は自分にとって快適な場所に移るということができません. ですから, そのような生物は生育環境が個体にとって不都合になった場合でもその環境で生き残る, もしくはより生活しやすくするための仕組みを発達させてきています.
環境に適応するためには様々なステップが必要です. その最初の段階は"何かが変わった"と細胞が感じ取ることでしょう. では, 生物はどのようにして細胞外環境の変化を認識し, それを細胞活動に反影させているのでしょうか?
そのような研究は分子生物学的手法が早くから確立された原核生物(特に大腸菌や枯草菌)を材料にして行なわれてきました. その結果, 原核生物では二成分制御系と名付けられた機構が, 外部環境の検知, およびその情報伝達に関わっていることがわかってきました. 二成分制御系はバクテリアやカビなのど微生物と植物に保存されており, 一般的にヒスチジンキナーゼとレスポンスレギュレーターより構成されるシグナル検知・伝達の機構です. 本研究室では, 1996年にゲノムが解読された単細胞性ラン藻Synechocystis sp. PCC 6803株を用いて光合成生物の環境応答機構の解明を目的に研究を行っています.
一つの大きなテーマとして, 環境シグナルの検知・伝達系である二成分制御系の解析をしています. 本グループではSynechocystisゲノムに存在する全ての二成分制御系遺伝子について, 可能なものについて遺伝子破壊株を構築, 解析してきました. DNAマイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現解析の結果, いくつかの環境変化に対して応答する二成分制御系を同定しています.
興味深いことに, 一つのヒスチジンキナーゼが種々の環境変化に応じて複数のレスポンスレギュレーターにリン酸基を転移する系も発見されています. 現在, その遺伝子産物がどのようにしてそのような制御を行なっているのかについて解析を進めています.
また二成分制御系はある種の藻類の葉緑体ゲノムにも保存されていることが分かっており, その制御系が葉緑体ゲノム中のどの遺伝子の発現に関与しているかに興味をもって研究もしています.


○ Fatty-acid Biosynthesis 脂肪酸合成

脂肪酸は全ての光合成生物が合成する脂質の1つであり, 主に生体膜(細胞膜やチラコイド膜など)の構成成分として知られています. 特に炭素骨格中に複数の二重結合をもつ「多価不飽和脂肪酸」は, 生体膜の膜流動性に関わる重要な脂肪酸であり, また生物の低温ストレス耐性の獲得に寄与することがわかっています. 例えば健康食品として有名なDHAやEPAは, それぞれ炭素数22で二重結合の数が6, 炭素数20で二重結合の数が5個の多価不飽和脂肪酸です.
本研究室では, ラン藻Synechocystisをプラットフォームとして, 脂質合成に関わる機能未知遺伝子の解析を行っています. 脂肪酸種の中には一部の藻類やバクテリアのみでしか検出されていないものがあり, その合成経路や機能を解明するため, ラン藻でそれらの脂肪酸を合成させ, 形質転換体の表現型を観察しています.


○ High-CO2 assimilation 高CO2順化機構

緑色植物綱ボルボックス目に属する単細胞微細藻類であるクラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii:和名コナミドリムシ)は, 遺伝学的手法による各種解析が可能であることや, ゲノム配列情報, EST解析結果が利用できることなど, 実験材料としての利点を数多く備えていることから, 光合成研究のモデル生物(Green Yeastと形容される)として広く用いられています. これまでにも, 本藻の環境変化に対する適応機構については様々な研究がなされ, そのユニークな生理メカニズムが明らかにされてきました. 中でも, 外界CO2の濃度変化に対する適応機構については, 本藻が光合成研究に用いられてきた経緯から, 特に詳細な研究が行われています.
本研究室の先行研究において, 本藻は高CO2通気条件下で機能未知タンパク質H43(High-CO2 inducible 43-kDa protein)をde novo合成することが始めて明らかにされました (Hanawa et al, 2007). さらにこのH43は, 高CO2, または鉄欠乏条件においてそれぞれ独立に誘導されることが示されています. CO2と鉄は, ともに光合成に深く関与する因子であり, これらストレスにより誘導されるH43遺伝子の発現制御機構の解明は極めて意義深いことです.
白岩研究室クラミドモナス班では, 本藻の高CO2, あるいは鉄欠乏環境に対する適応機構を明らかにするために, 以下の2つの研究を平行して行っています.

1. H43遺伝子のシス制御因子を決定する. その配列情報を元に, 本藻のゲノム配列情報データベース上でこれと相同的なシス制御因子を持つ遺伝子を検索することによる. ゲノムワイドな高CO2, あるいは鉄欠乏誘導性遺伝子の探索, また, そのアノテーションによる高CO2, あるいは鉄欠乏条件が細胞に与える影響の評価

2. H43遺伝子のシス制御因子に対し結合するトランス制御因子の同定. また, 同トランス因子により制御されている遺伝子のマイクロアレイ解析による探索

これらのアプローチから, 本藻の高CO2, あるいは鉄欠乏環境に対する応答メカニズムの解明および, これらストレスの細胞生理に対する影響, 作用点を明らかにすることが白岩研究室クラミドモナス班の目的です.


○ Biofuel production 炭化水素生産

ボトリオコッカスは軽油相当の炭化水素を蓄積するとてもユニークな生物です. ボトリオコッカスが合成する炭化水素は, 穀類を原料としたエタノール生産などとは異なり, 食糧供給や価格高騰の心配もなく環境に対する負荷が小さいバイオ燃料として利用が期待されています. しかし, 大量生産を可能とするための合成経路の解明や, その合成を促進する条件など, 科学的研究データの更なる蓄積が必要とされています. 本研究室は, ボトリオコッカスによるバイオ燃料生産について, 代謝生理の観点から研究しています.
ボトリオコッカスによるバイオ燃料生産を効率よく行うためには, 炭化水素合成に適した条件を知ることが必要です.
炭化水素を含む全ての有機化合物は, 光合成により得られた炭素源を元に合成されます. 従って炭化水素の合成促進においても, 光合成の促進による, より多くの炭素源の獲得が重要であると予想されます.
一方これまでの研究から, ボトリオコッカスを含む多くの生物において, 窒素源の欠乏は生育を阻害する一方で, 炭化水素の合成を促進することが示されています. これはアミノ酸合成に利用されていた炭素源が, 窒素源の欠乏によりその利用量が制限され, 余った炭素が炭化水素合成に利用されるようになるためと考えられています. 炭化水素合成を促進するためには, 代謝における炭素源の振り分けも無視できない重要なファクターです.
したがって炭化水素の合成促進は, 光合成の促進と, 炭化水素合成経路へより多くの炭素源を振り分けることにより達成されると考えられます.
以上を踏まえ, 我々はボトリオコッカスの代謝が炭化水素合成に最も適した状態となる条件を探ると同時に, その代謝経路の解析も行っています. これらの成果が将来のバイオ燃料の効率的な大量生産を可能にすると考えています.


○ Trace Element Utilization 微量元素利用

1. 微細藻類によるヨウ素の濃縮と利用

地下資源に乏しい日本ですが, ヨウ素に限れば, 世界需要の半分を供給する「ヨウ素大国」で, その大部分が千葉県から産出されています. 千葉県のヨウ素は天然ガスを含むかん水(太古に封じ込められた地下海水)に含まれていることから, ヨウ素の起源は, 生物起源と考えられ, 次のスキームが推察されています.
ヨウ素→微細藻により吸収→死骸と共に海底に沈降→プレート移動で日本の地下へ移動
しかし, 実際に微細藻がヨウ素を吸収するか等, 生物学的データは全くありませんでしたが, 本研究室により高度にヨウ素を吸収する微細藻が発見されました. これにより, ヨウ素が微細藻の生理に関わっていることや, 地球規模のヨウ素の循環に微細藻が関与していることが強く示唆されました.

2. カドミウム濃縮遺伝子の単離

カドミウムは毒性の強い元素であり, 環境中の存在量が厳しく制限されています. そのため, 汚染土壌や工業廃液からのカドミウムの効果的な除去は, 社会的, 工業的および環境的に大変重要な意義を持ちます.
本研究室では, 微生物を用いたバイオレメディエーション技術の開発を目的に, メタゲノムライブラリーよりカドミウム濃縮に関与する新規遺伝子の取得を行っています.